がちゃりと音をたてて扉を開ける。一歩でも中に入れば、そこはもう一人暮らしの我が家。
居候の幽霊が成仏してから(してると思いたい)、早いもので一週間が経った。
色づきだした世界は眩しくて。でもきっと、また元通りになるんだろうな、なんて、冷静に考える自分がいた。
「はぁ……疲れた」
「おー、お帰り」
一瞬の空白。
「なんで居るのよ!? 透けてないし!」
「いやあ、天国行きの列並んでたら、なんか白いオッサンに呼ばれてさ。『あの娘めっちゃ生者感ないし、そうじゃなくてもすっごい心配な顔してるから見守っててくれ』……って」
成仏に失敗したわけでも、私の幻覚でもないらしい。それはそうと、見知らぬ人外に心配されるってどうなんだろう。
「そんな風に思われてるの、私」
「俺も思うぜ。初めて会った時とか、今にも自殺しそうな絶望した顔してた」
「うっそお」
表情が変わらないのは自覚してたけど、そこまでだとは思わなかった。ちょっとショック。
「マシにはなってきたけどな。――で、どうせなら実体化してたほうが勝手がいいだろうって言われて、すごそうな術かけられて現世に帰された。お前みたいにチャンネルが合う奴にしか見えないらしいけどな」
「ふうん。じゃあ、半分幽霊みたいな感じ?」
「そそ。前みたいに飛べるし壁すり抜けられるぜ」
初耳なんだけど。前もそれを使って侵入してたのね。
「ついでにメシ食えるようにもしてもらった」
「まさか、あんたの食い扶持まで面倒見なきゃなんないの?」
「んー、食わなくても問題はないらしいから、ピンチのときは控える」
「常に控えててくれない?」
「ところで、生き返ったら蒸し鶏作ってくれるって言ってたよな?」
覚えてたんだ。記憶力がいいのか、食い意地がはってるのか……。
「あんたのそれは生き返ったって言えるの?」
「言える。言えねえと困る。だから蒸し鶏」
「わかったわよ。作ったげるから、手伝って」
「了解。何すればいい?」
うきうきとしたオーラを発している幽霊男。そんなに食べたかったのかな。
部屋の明かりを消す。布団に潜り込んだとき、あることを思い出した。
「そういえばさ」
「ん、なんだ?」
「名前、聞いてないんだけど」
「そうだっけ? 俺の名前は――」
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