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てい・ぽっと

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二日目



 「朝だぞ、おっきろー」
「んん、何よ……」
 眠い目を擦り、昨日の記憶を取り戻し、幽霊男の位置を確認する。そして、そこへ拳を叩きつけた。案の定、何の手応えもない。
 「何すんだよ!?」
「ベッドに近づいたら殴るって言ったでしょ。それで、幽霊は寝れるものだったの?」
「案外フツーに寝れたぜ。それより腕抜いてくれ。なんか気持ち悪りィ」
「あ、ごめん。でも少しひんやりしてて気持ちいよ」
「冷気だか霊気だかわかんねえな、それ」
 カーテンを開けた。予報どうり土砂降りの雨だ。晴れとは言わずとも、せめて曇りだったらよかったのに。折角の休日(夏休みの長い大学生とはいえ、バイトのない日は貴重だ)、古本屋にも行けないなんて勿体ない。
 「暇……」
「課題とか出てんじゃねえの?」
「おととい終わらせた。少しくらい残しとけばよかった……」
「血迷うなよ」
 暇だ。とにかく。とても。
 そういえば幽霊男の名前すら知らないけど、何となく、今知っていること以上は踏み込むべきではない気がした。
 「そうだな、俺が生前の話をしてやろう」
気がしただけだった。
 「大丈夫なの、それ。色々と」
「大丈夫大丈夫、死んだ時の話はしねえし。面白くもないだろ。なんか聞きたいことあるか?」
「それじゃあ、将来の夢」
「将来の夢? 正義のヒーロー」
「ふふっ、案外可愛い夢だったんだ」
「笑ってくれるなよ。これでも真面目に叶えようとしてたんだぞ」
 幽霊男は口を尖らせて、拗ねたような表情をした。それが妙に似合っていて、また笑えてくる。
 「あはは、ごめん」
「だから笑うなっての。他は?」
「他? えっーと、お父さんのこと、とか」
「親父なぁ……。頭固いクソ親父」
「クソ親父?」
「おう、クソ親父。警察してる。仕事中の姿は尊敬してやらんでもない。でも大学行けってしつこかったからプラマイゼロだな」
 そう言う幽霊男の目はきらきらしていた。きっと、プラマイゼロなんかじゃない。
「ふうん。お父さんがヒーロー像だったりするの?」
「ねえよ。俺のヒーローは今も昔もウルトラマンただひとりだ」
「ウルトラマンって宇宙人じゃなかったっけ」
「……人の形してるから人間カウントでいいだろ」
それもそうか。
「何にせよ、尊敬できる人がいるのはいいことだよ。私はそういう人いないから、ちょっと憧れるかも」
「……そうだな。ところで、もう昼飯どきじゃねえの?」
「あ、ほんとだ。何食べよ」
「ラーメンとチャーハンでいいんじゃねえの」
「……あんた、自分が食べれないからって太らせようとしてない?」
「……気のせいだろ」
 あさっての方向を見る幽霊男。ラーメン、食べたくなってきたじゃない。
 結局、昼食はカップラーメンにした。災害時の備蓄品だったんだけど……おいしかったから、いいか。
 「暇だな」
「本当にね」
 テレビはつまらない特番、本は内容覚えていて、CDは残念ながらプレイヤーが壊れている。そう、完全にふりだしに戻ってしまったのだ。
 「よし、晩飯考えようぜ。俺は唐揚げがいいと思う」
 数分間の沈黙のあと、突然に幽霊男が明るい声を出した。案外不器用なのかもしれない。
 「太るから却下。お昼はラーメンだったでしょ」
「チキン南蛮」
「却下」
「手羽先」
ああもう、どうして鶏肉料理ばっかり提案するのよ。食べたくなってきたじゃない。
「却下。手羽はないけどむね肉あるから蒸し鶏にする」
「いいな蒸し鶏。タレは?」
「ネギ?」
「おー、ネギダレいいな。……飯テロするんじゃなかった」
「自業自得よ。生き返ったら作ったげる」
「畜生、この世の理に抗えってのか」
「献立決まったし、作ってくるわ。"あーん"くらいはしてあげてもいいわよ」
「誰がされるか。成仏できなかったらお前のせいだからな」
「はいはい」
 部屋の明かりを消す。
布団の中で考えごとはしなかった。
「おやすみ」
今日も優しい声を聞きながら、眠りについた。

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